ロバート・クーパー博士、イノベーションとステージゲート法の未来について語る(後編)

前回『イノベーションとステージゲート法の未来について』のロバート・クーパー博士の動画をご視聴になった方は、インタビューの続きをご覧ください。イノベーションを育む文化の醸成、ステージゲート法の導入を始める時期、この新たな開発プロセスがいかにして顧客の声を反映させるかについて博士が語ります。

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なぜ、大胆なイノベーションへの取り組みが企業にとって重要なのか

 

まずミシェル、「リノベーション」という言葉は、私たち全員に馴染みのある「イノベーション」という言葉と語感がよく似ていますが、リノベーションはイノベーションではありません。むしろ正反対のものです。

最初にはっきりさせておきたいのは、ここでは製品やサービスのイノベーションについて述べているということです。企業や組織が顧客やユーザーのために製品やサービスを市場投入するものです。イノベーションという言葉を、企業が社内外で行う新しいことのすべてを意味するものとして使う企業もあります。しかし、私はそのようなことを言っているのではありません。外部市場に対して革新的な製品やサービスを提供するという意味でのイノベーションについて話しています。

私にとっては、また、大半の人にとってもそうだと思いますが、イノベーションという言葉は、外部世界の市場に対して、自社が事業を展開する市場に対して、何か新しいものを提供することを意味します。

新しい技術を基盤にしていることもありますが、必ずしもそうとは限りません。たとえば、歴史上最も成功した製品の1つであるiPodは、イノベーティブなシステムでした。mp3プレーヤーは少し前から存在しており、Napsterのようにダウンロードできる音楽ファイルも多種ありました。しかし、スティーブ・ジョブズが現れ、まったく新しいイノベーティブなシステムを構築し、世界で最も成功した製品およびシステムを完成させました。 これこそが真のイノベーションです。
リノベーションはこの対極にあります。これは、企業が既存の製品に少し手を加えるというものです。部分的に少し直したり、小さな改良を加えたり、色やラベルを変えてみたりすること、少し何かを加えたり差し引いたりすることです。それほどエキサイティングなものではありません。こうしたプロジェクトの多くは、営業部門から生まれます。営業担当者がやってきて、こう言うのです。「ちょっと変更するだけで売上や注文を獲得できますよ。ちょっと変えてくれさえすれば、売ってみせますよ」

残念ながら、製品開発の大半はこのリノベーションタイプのものです。改善、改良、修正、微調整といった、それほどエキサイティングではない、大きな収益をもたらすことのないものです。

もう1つの問いは、なぜ大胆なイノベーションを行うことが重要かということです。これは単純に、企業がイノベーションから遠ざかり、リノベーションタイプの小規模プロジェクトへと移行するにつれ、研究開発費に対する生産性が確実に低下しているということを示す強力な証拠があるからです。また、大成功を収めた企業を対象に私たちが調査した結果、そうした企業のプロジェクトポートフォリオにはイノベーティブなものが格段に多く、リノベーションタイプのものは少ないことが分かりました。一方、製品開発に関して最も成績の振るわない企業(収益性やさまざまな評価基準で測定)は、リノベーションタイプのプロジェクトを重視する傾向があります。したがって、この点については「イノベーターが勝つ」という明確な証拠があるのです。

 

豊かなイノベーション文化を促進するうえで最大のハードルとは?

これはトップマネジメント及びリーダーシップが本当に必要な領域だと思います。「当社はボトムアップ型の組織で、現場からの発案で組織を動かしていこうとしています」という発言をよく耳にしますが、イノベーションを起こすには、極度に難しいことです。

マネジメント層が率先して取り組まない場合、イノベーションは成功しません。必要なサポートやリソース、精神的な支援を望むことはできないでしょう。それなら、サポートしてくれそうな会社に転職したほうがよいかもしれません。

リーダーシップ、ビジョン、サポート、エンパワーメントの欠如が問題です。リソースの投入・実質的な支援が必要です。しかし、多くの人は口先だけでなかなか実行しません。

リーダーシップチームにビジョンと勇気が欠けていること。これがおそらく、一番の障害になっているのではないでしょうか。それが私の推測です。

 

ステージゲート法の概要

ステージゲート法のコンセプトは非常にシンプルです。基本的に、大きなプロジェクトを一連のステージに分割し、その間にゲートを設けるというものです。少し作業を進めて、情報を集め、集めた情報を評価し、決定を下します。続けるか、投資を継続するか?このプロジェクトにもっと資金を投入するか。決定を下して、次のステージに進みます。

これは新製品のプロジェクトに限らず、一定の期間を費やして行われるあらゆるプロジェクトの遂行方法です。工程を管理しやすい一口サイズに分割し、途中に意思決定ポイントを設けます。このプロジェクトをまだ続けるべきか、さらに投資をするべきかを決めるポイントです。

これは、リスクを軽減する方法のひとつとして、プロジェクトを運営する上で非常に賢明な方法です。しかし、考えてみれば、ビルの建設でもプロセス研究でも、重要なプロジェクトはすべてそのように実施されるべきではないでしょうか。これがステージゲート法のプロセスなのです。

[ミシェル・デュリファー]この方法はいつ、どのようにして誕生したのでしょうか。

[ロバート・クーパー]ある朝目覚めたときに、「エウレカ(わかったぞ)!これが世界のあるべき姿だ!」と発見したと言いたいところですが(笑)、そんなことは起こりませんでした・・・。

まだ教授になったばかりの頃、私は政府の助成金を受け取りました。博士号を取ったばかりの若い大学教授がそうであるように、私も非常に複雑な研究をしようとしていたのですが、助成金を出してくれた政府の担当者が私の研究を見てこう言いました。「これは大変おもしろいですね。あなたが何をしようとしているのか私には分かりかねますが、我が国が必要としているのは、新製品を世に出すイノベーターや起業家のすばらしい開発ストーリーです。あなたはそのようなストーリーを書くべきだと思います」。私はその人を見て、こう言いました。「私を何だと思っているのですか。新聞記者か何かだとでも。私は学術研究者です。ストーリーは書きません」。するとその人は、「資金が必要ではありませんか」と言いました。私が「必要です」と答えると、彼は「それでは開発ストーリーを書きなさい」と言いました。

そこで私はあちこち出向いていって、学部長や他の教授たち数人に協力してもらい、当時教授として働いていたカナダや、アメリカ北東部を中心に、大企業でプロジェクトを行ったことのある人たちを探し出しました。

デュポンなどの会社を訪問し、こう言いました。「御社で製品開発方法の研修プログラムにおいてケーススタディとして使われるような製品を開発した人たちとお話したいのです」。チームを紹介してもらって、彼らの話しを聞くというのが常でした。

驚いたことに、喜んで協力してくれる企業が何社もありました。企業の方も、後世に伝えるために、ストーリーを書き残しておきたいと考えていたからです。私はこれらのストーリーを書き始めました。大抵は1社あたり約2〜3カ月かかり、20〜30本のストーリーを書いた後、見えてきたことがありました。「一定のパターンがある!」。デュポンによる開発やユナイテッド・テクノロジーズによる新型ジェット・エンジンの開発でも、他の企業による新しい通信システムの開発でも、そこには1つのパターンがありました。彼らは皆、まるで同じ学校の出身のようでした。そこで私は、これらのさまざまなチームが行っていることを統合し、戦略本を作成できるのではないかと考え始めました。

それはちょうど、英国のマンチェスター・ユナイテッドのような、いつも優勝しているサッカーチームを見るようでした。何度も試合を見ているうちに、「そこにはパターンがある、彼らは他とは違う何かをしている」と思うようになります。次にスペインの優勝チームを観察すると、そこにもパターンがあることが分かります。これらの断片をゆっくりと、しかし確実に、すべてつなぎ合わせていくのです。

そこで、私はまず、パターンの特定から始めました。「ベストプラクティスは何か?これらのチームが共通して行っていることは何か」。たとえば、これらの人々は誰もがプロセスを断片に分けているというようなことが分かります。上司のところに行って、一度に全額を要求する者はいませんでした。少しずつに分けていました。彼らは上司の扱い方を心得ていました。

もうひとつ、共通して行っていたことがあります。彼らはまさに最初から顧客の声を取り入れていました。非常に賢いプロジェクトリーダーたちです。非常に起業家的で、非常に賢い人たちでした。

そして、ゆっくりではあっても確実に断片をつなぎ合わせていくと、ある人が私に提案してきました。「欧州最高のシェフたちによる料理本を真似て、開発プロセスの完全なレシピを書いてみてはどうですか。最高のプロジェクトチームによる新製品開発のガイドになるのでは」と。

こうしてステージゲート法が誕生しました。

 

ステージゲート法: 勝利へと導くモデルか、未完成の方法か

一方で、「これこそがステージゲート法だ」と満足する日がくることはないと思います。なぜなら、この方法は進化するプロセスであり、私たちが正しい姿だと思ったときには、他の会社が改善策を打ち出しているからです。これはすばらしいことだと思います。常に成長し続け、自己改善を続けます。ですから、これまでに私たちは「ああ、これだ、これで完璧だ」と言うような地点に到達したことはありません。

ステージゲート法は進化し続けています。この5年間に限っても、私が関わった会社や連絡をくれた企業は驚くほどたくさんあります。「私たちの成果を見てください。これは非常に賢い方法です。これこそがまさに、当社が新しい段階で求めているものです」と、言ってきます。

こうしたことが今、世界中で起こっています。世界中から届くこうした声に、私はとても感謝しています。

 

ステージゲート法の導入に向けた準備

シンプルさを保ち、かなり大まかで、事務作業が煩雑ではないプロセスにすれば、起業家精神にあふれた最小規模の会社にも適していると思います。最小の事例では、2人だけの会社がステージゲートプロセスを活用しているのを見たことがあります。

こうした企業が導入しているステージゲート法のプロセスは、エクソンやデュポンのプロセスとは明らかに大きく異なります。より概念的で、フローダイアグラムに似た方法となる傾向があります。「これらがステージで、これらがゲートです。私たちが問う問題はこれらであり、行っている活動はこれらです」という具合に、非常にシンプルです。事務作業は多くありません。しかし、これは小さな会社の一握りの人たちがA地点からB地点まで行くためのガイドのロードマップに過ぎません。

非常に興味深いことがあったのですが、私は今、カナダ(仏語圏と英語圏の両方)で2つの中小企業のグループと仕事をしています。政府のプログラムで選出された企業で、いずれも研究助成金を受け取っています。オンタリオ州の12社とモントリオール地域の12社です。私はこれらの企業から、ベストプラクティスや競争を勝ち抜く方法についてこうした人々向けのセミナーを実施してほしいと言われました。そこで私はこう答えました。「どこも小規模な企業です。ご存知のように中小企業はプロセスを嫌うので、プロセスの話はやめておきましょう。それについては話さないことにします」

さて、皆でコーヒーを飲みながら休憩していたとき、1人がこう言いました。「私が前に勤めていた企業をよくご存知だそうですね。そこではステージゲート法を活用していました」。それで、私はステージゲート法について少し話しました。すると、全員がもっと聞きたいと言ってきたのです。そこで、私はユーザーグループと一緒に、中小企業向けのステージゲート法を実際に開発しました。パワーポイントをベースにした非常にシンプルなもので、大変気に入ってもらえました。

しかし、本当に非常にシンプルで大まかなプロセスです。事務作業は煩雑ではありません。だからこそこのメソッドを実践できるのです。

[ミシェル・デュリファー]そのように簡略化されたプロセスでも、中小企業にとって有益なんですね。

[ロバート・クーパー]そのとおりです。プロセスを少し構造化して自分たちが進んだ地点に印を付けるだけで、大変有益なことに彼らは気づきました。ロードマップのようなものです。これは、自分たちが向かう先について熟考するのに役立ちます。

実際に使用した人々が挙げるもう1つのポイントとして、明らかな見落としを防ぐことができるという利点があります。ステージゲート法はより包括的なプロセスなので、他の方法では行われないものも含まれています。人間はよく見落としをするものなので、これはよい点です。

ですから、中小企業が導入してもまったく問題ないと言えますが、だたし、シンプルさを保たなければなりません。

 

ステージゲート法モデルへの批判に一言

私は長年にわたり、ステージゲート法に批判的な記事をいくつも読んできました。有力なシステムがあれば、それを批判する人が出てくるのは当然のことです。批判的な意見もあるだろうし、それが普通だと思います。すばらしいプロセスであるシックスシグマでさえ、その全盛期には批判されていました。

批判に対する反論を読むのも同様に興味深いものです。ステージゲート法を批判する記事に対して、反論する記事を書いた人もたくさんいました。議論は一進一退です。私はその戦いに加わる気はありません。むしろ、戦いの場からは距離をおいています。

批判者からのよくあるコメントは、プロセスが官僚的である、プロセスが硬直的である、プロセスが直線的である、プロセスに適応性がないなどで、他にも批判の際によく使われる形容詞があります。

これらに対する反論は、大抵次のように論じます。第1に、ステージゲート法を官僚主義的にしたのはあなた方だということです。このプロセス自体は官僚主義的ではないのに、自分たちがそうしてしまったのです。つまり、導入方法の問題です。すべての書類を提出し、すべてのフォームに記入し、等々・・・。元々のモデルにはそのようなものはまったくありませんでしたし、あるはずもありません。2ページで済むはずのビジネスケースを60ページにすることを選んだのは、あなた方の選択です。

ですから、批判の多くは企業の導入方法に関するものです。ちょうどリーンシックスシグマと同じように、多くの企業が導入に成功し成果を得ましたが、よい結果が得られなかったケースもあります。「悪魔は細部に宿る」。あらゆる細部に落とし穴が潜んでおり、導入に問題があったのです。

批判に対する他の反論としては、別の論点に対するものがあります。すなわち、この方法が硬直した面や適応性のない面を持っており、どの企業にも適切というわけではないという論点です。これは実際その通りで、1995年当時のステージゲート法システムには確かにそのような問題がありました。1995年のステージゲート法システムを導入している企業は、そのような問題を抱えているでしょう。しかし、それは恥ずべきことであり、今は2014年なので、いいかげんにシステムを更新すべきでしょう。4、5年以上前のものは、もう時代遅れなのです。

ほとんどの企業は、旧式モデルから脱却しています。適応性を高め、直線性と硬直性を排除し、画一性を取り除いて、コンテキストベースのものにしています。自社のプロセスを最新のものに更新しています。

つまり、導入の仕方が間違っていることと、1995年頃の非常に古いバージョンのモデルを使っているという、2つの一般的反論があります。

 

ケーススタディ:ステージゲート法が信頼を勝ち取るまで

訴訟問題になる可能性があるので、この話題では発言には気をつけた方がいいですね。当然ながら企業名は挙げられませんが、我が国のある大手銀行の事例です。これは我が国最大の銀行で、その中でも収益の大半を占める法人向け業務に関する事例です。一般的に銀行の事業は個人と法人向け事業に分類されます。法人向け事業を統括する責任者のシニアエグゼクティブバイスプレジデントは、アカウントマネージャー出身の取引き好きな人物で、官僚主義を嫌っていました。融資や大きな取引、資金調達などに取り組むことを好み、プロセスをあまり重視しませんでした。

その銀行ではステージゲートプロセスの導入が始まっていて、その人物が上級職に就任したのはその後でした。私は彼がこう言ったのを覚えています。「ボブ、このプロセスは私と相性が悪いみたいだ。仲良くはなれそうもないね」

私は同じ都市に住んでいたため、彼らがこのプロセスを導入するのを手伝うことになりました。実際、私はこの組織と4、5年ほど一緒に仕事をしました。

その後、彼はステージゲート法の信奉者になったのです。それも、おもしろいことに一夜にして考えが変わりました。

同行は中小企業向けに設計された新商品を開発しました。段階金利型口座と呼ばれるものです。これは銀行に預金すると、総預金額に応じてより高い金利を提供するというもので、中小企業を対象に設計されました。

ご存知のように、大手銀行は中小企業の間で評判が悪いものです。中小企業は大手銀行を嫌っています。そこで同行はこう考えました。「中小企業を支援して評判を高めよう。そのために、段階金利型口座を提供しよう」。これは彼のアイデアでした。彼はシニアアカウントマネージャーの経験がある現場からの叩き上げだったので、「中小企業を支援するすばらしいアイデアだ」と思ったそうです。大企業のこうした現金口座には、当然のことながら利息はまったくつきません。

そして市場投入したところ、最初の販売先はエクソン、2番目はある大手保険会社、3番目は・・・。

[ミシェル・デュリファー]中小企業ではないじゃないですか!

[ロバート・クーパー]中小企業じゃありませんね。彼らはすべきことをまったくやっていませんでした。発売計画を策定していないばかりか、ビジネスケースも作成していませんでした。営業部門に何の研修も行っていませんでした。営業担当者は出かけていって、どの企業にも販売しました。その結果、支払う必要のなかった金利を払わなければならなくなり、約3カ月で1,700万ドルの損失を出したのです。

この時、責任者が私のところに来てこう言いました。「今回のことは手痛い教訓となりました。すべきことはきちんとしなければなりません。顧客の声を調査して、発売計画を立て、営業担当の研修に盛り込む。これらを全部きちんと行うべきだったのに、何もしていませんでした。私の責任です。私たちにはプロセスが必要だと思います。このようなことは2度と繰り返したくありません」

彼にとって、非常に高価な教訓となりました。おもしろいことに、私が後にこれについて書いた本の中で、彼は巻末の推薦者の1人として「これは読むべき本だ」と書いてくれました。証人として名前を出して、「これは導入すべきシステムだ」と述べたのです。

つまり、最初から180度意見を変えたのです。これは非常に大きな銀行で起こった大変おもしろい事例でした。

 

新製品の開発を成功させる上で、PPMツールが果たす役割

PPMツールはどれほど大きな変化をもたらしたことでしょうか。今や経営陣は、プロジェクトがどこにあるのか、リソースがどこに投入されているのか、どのプロジェクトが問題を抱えているのか、どのプロジェクトが予定よりも遅れているのかを把握できるようになりました。

さまざまな表示やダッシュボードにより、ポートフォリオのレビューは格段に容易になりました。

プロジェクトチームにとってもまた、同じドキュメントを異なる場所で重複することなく作業できるようになり、仕事が格段に楽になりました。

そして、「こんなことができたらいいな」と私たちが思っていたことをすべて実現してくれたのです。

その希望は今や自動化によって実現しています。

 

2つのポンプの物語:新製品開発(NPD)プロセスに顧客の声を反映させることの重要性

ポンプ部門を持つ巨大コングロマリットの事例についてお話します。ここでも名前を出さないように気をつけないと訴訟になる可能性がありますが・・・、この企業の最初のプロジェクトは大失敗でした。同社がスマートポンプを開発することを決めたのは、「センサーを搭載した工業用の高機能ポンプを作れないものか」という、顧客からの提案があったからです。通常のポンプは、電源を入れると水を汲み上げるだけという非常に気の利かないものでした。

同社はこう考えました。「周囲の環境を認識し、振動などの異常があれば必要な修正措置を講じることのできるポンプ。異常振動を起こして壊れてしまうなど、ポンプによくある故障を事前に予防できるポンプが望ましい」

「そういうスマートポンプを考案しよう」。そして同社はこう決意したのです。「これは我々のためのプロジェクトだ。インテリジェントなポンプを世に送り出す初の企業になるんだ」と。そして同社は、インテリジェントポンプの提案をした顧客、それがたまたまデュポンだったのですが、その顧客以外には、顧客の声をまったく調査しませんでした。

誰もがこのプロジェクトに参加したがりました。その年の目玉となるプロジェクトでした。私は実際に同社のイベント(セールス、マーケティング、テクニカル部門のイベント)に参加したのですが、プロジェクトチームが壇上に招かれ、盛大な拍手の中、挨拶とスライドプレゼンテーションが行われました。チームが登壇したときは、その驚くべき製品に前例のない大喝采が巻き起こったのです。

チームはポンプにマイクロプロセッサー、つまりコンピューターを取り付けて設計し、あらゆる種類のセンサーを搭載しました。振動、圧力、温度、上流、下流、ハウジング内など、望むものは何でも感知することができました。・・・そして、これらのすべてのデータを処理し、加速や減速などの必要なアクションを起こすことができました。人々は「これは驚異的だ」と思いました。もちろん、彼らは全員技術者だったのですが、実際に売れたのは1台です。1台限りでした。同社はこれに2,000万ドルを費やしたのです。それはすばらしい技術でした。すばらしかった。しかし、その製品はまったく売れず、1年のうちに市場から引き上げなければなりませんでした。

次に、同社の2番目のプロジェクトについてお話しましょう。米国事業所にイタリアから新しいマネージングディレクターが赴任してきました。彼は、イタリアで同じ会社のポンプ部門を統括しており、VOC[Voice-of-Customer、顧客の声]を強く信奉していました。新しいマネージングディレクターは、チームがこの製品にどれだけの資金をつぎ込んだかを知って驚きました。そして、顧客ときちんと話をせず、問題すら理解しないまま思い込みの解決策を提示していたことが分かると、愕然としました。

そこで彼は、顧客の声の反映方法を教えるために自分が欧州で利用していたグループ(確かストックホルム発祥のグループだったと思います)を活用しました。このグループは、顧客の声の調査方法などの研修に取り組み、成果を挙げていました。B2Bですね。そして気がつくと、同社はこのプロジェクトをVOC(顧客の声)プロジェクトの1つとして復活させていたのです。

技術、マーケティング、営業の3人のチームが編成され、現場へ出向いて顧客との対話を開始しました。製油所や化学工場など、ポンプを使用している数多くのユーザーのもとを回りました。すると面白いことに、ポンプの振動について多くを語る人はいません。それは問題ではないのです。しかし、彼らは非常に興味深い問いかけをしています。たとえば、「夜ベッドに入ってポンプについて考えたとき、心配で眠れなくなるのはなぜだろう・・・」。あるいは、「ポンプを信頼できる理由は?」。これもまたよい質問でしょう。あるいは、「ポンプについて、困ったことが起こるのはどの点か」

また、訪問の中で繰り返し耳にしたことがありました。ある工場には、25台のポンプが設置されていました。各々が50馬力か100馬力のポンプで、1日24時間、週7日稼働し続け、膨大な電力を使用しています。電気代が安かった頃は問題ありませんでしたが、今は電気代が命取りになっています。そこで、素朴な製品開発者ならこう言うでしょう。「もっと効率的なポンプを開発しよう!」と。しかし、それはすでに行われています。内燃機関と同じように、それは存在するのです。10億ドルかけてわずか2%の改善ができることが分かっています。

チームが顧客の工場を歩き回るときにしたことは他にもあります。現場の従業員と同様にヘルメットをかぶって、ゴーグルをして回るのです。顧客の声を調査する際は、出向いていって実際に顧客と触れ合い、顧客が製品を使用したり、誤った使い方をしたりするのをその目で見る必要があります。そうすることで気づいたことの1つが、すべてのポンプの横にはバルブがあるということでした。「それは何のためですか」と彼らは尋ねました。「水流をコントロールするためです」。「ちょっと待ってください。ポンプは全速力で稼働させていますよね。50馬力の全速力で稼働させると、米国では1分辺りの回転数は1750rpmです。それなのに、バルブで流れを抑制しているのですか。これは、自動車を運転するときに、全速力で走れるようにアクセルを床まで踏み込みながらハンドブレーキでスピードをコントロールするようなものではないでしょうか。それは馬鹿げていますよ。私たちには解決策があります。下流での供給と上流での需要を感知する技術があり、あまり必要のない時にはマイクロプロセッサーがポンプの速度を落としてくれます」

そして今世紀初頭、供給/需要の変速が可能なスマートポンプが完成しましたが、これはすばらしい製品でした。売り上げはうなぎ上りとなりました。既存設備を改修するのに費用はかかりますが、約8カ月で元は取れました(電気代の節約になります)。新たに設備する場合は、バルブも必要ないので、直ちに元が取れました。

「二都物語」のような大成功です。最悪の時代(第1プロジェクト)と最高の時代というわけですね。

[ミシェル・デュリファー]すばらしいストーリーですね、ボブ。

[ロバート・クーパー]本当にたくさんのことを学びました。今では全員、ステージゲート法を心底信頼しています。今でも当時の技術責任者と時折連絡を取り合っています。彼は同社のCTO(最高技術責任者)になりましたが、彼自身もこれが大きな学びの1つだったと言っています。私たちはにとって忘れられない物語です。

プラニスウェアについて

プラニスウェアは全世界で25年以上の歴史を持ち、世界的な調査会社であるガートナーやフォレスター社で取り上げられる日本市場で唯一のプロジェクトポートフォリオ管理(PPM)ソリューションを有する企業です。

国内外の、自動車を含む製造業、消費財、ライフサイエンス、化学、ハイテク、その他の分野において、世界最大規模のR&Dプロジェクト100件のうち33%以上にプラニスウェアのソリューションが活用されています。プラニスウェアは、PPM分野のベストプラクティス手法のサポートに関して認証を受けており、製造業における代表的なガバナンス手法であるStage-Gate®Ready認定を取得した数少ないソフトウェアソリューション企業の1つでもあります。

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