ロバート・クーパー博士、イノベーションとステージゲート法の未来について語る (前編)

ステージゲート法の第一人者であるクーパー博士に、新製品開発プロジェクトにおけるリスク緩和、アジャイル方式への対応、行き詰まったプロジェクトプロセスの解消など、製造業・主に新製品開発(NPD, New Product Development) におけるイノベーションの課題についてご意見を伺いました。 持続的イノベーション及び破壊的イノベーションをプロジェクトポートフォリオマネジメントを通じてコントロールする方法についてもご紹介します。

※【日本語字幕の設定方法】動画再生画面右下の設定アイコン(歯車型のマーク)をクリックし、「字幕」オプションより「日本語」にチェックを入れた状態でご覧下さい

新製品開発プロジェクトにおけるリスクをいかに緩和できるか(0:15~2:54)

失敗する確率がかなり高いことは確かです。実際には、失敗と成功の比率が7対1ならよい方でしょう。しかし、アイデア創出の段階を考慮するなら、もっと高いことになります。コンセプトの段階で7対1の比率なら、アイデアの段階では60対1くらいでしょう。

段階的なコミットメント

まず、覚えておいていただきたいのは、この方法はポーカーゲームに少し似たところがあるということです。ポーカーゲームのテーブルに着いて賭けを始めるとき、最初から全財産を投じるわけではありません。最初は2ドルくらいを賭けて、数枚のカードを引きます。そして、さらにもう少しお金を賭け、もう数枚のカードを引いて情報を手にします。

つまり、新製品開発のプロジェクトでは、最初から全額を投じることはありません。段階を踏んで、コミットメントを徐々に増やしていくのです。より多くのことを学ぶにつれ、さらに多くのお金を賭けていきます。プロジェクトの最初のステージで支出するのは数千ドル、次のステージで1万ドル、その次のステージでは5万ドルかもしれません。しかし、市場投入の準備やフル生産を始める態勢などが整うまでは、全額を投じることはありません。

これがリスクを緩和する1つの方法です。こうしてリスクをなくすのではなく、管理するのです。しかも、ステージゲート法のプロセスに非常によく適合する漸増的手法で行う、リスク管理およびリスク緩和の方法というわけです。

バランスのとれたプロジェクトポートフォリオ

他にも、同じようによく使われるいくつかの方法があります。ポートフォリオのバランスをとるという方法です。つまり、リスク管理の本質はバランスのとれたポートフォリオを構成することにあり、株式ブローカーなら誰でもそう言うでしょう。高リスクのプロジェクトと低リスクのプロジェクトを組み合わせるわけです。それがリスク緩和のもう1つの方法です。その点で戦略的バケットというのは、いかにポートフォリオのバランスを最適化して、合理的リスクとなるよう組み合わせるかを考えるものです。リスクが高いものも低いものもありますが、適切な組み合わせでバランスをとります。

したがって、経営陣がうまくリスクを管理できる方法はいくつかあります。決してリスクを取り除こうというのではありません。リスクを取り除く唯一の方法は、ゲームから降りることです。しかし、それはある意味で死に等しいことですから、そうしたいと思う経営者はいないでしょう。リスクを管理する方法はあるのですから。

[ミシェル・デュリファー]そう問いかけて、「大胆なイノベーション」に取り組む気にさせるわけですね。リスクがあっても、あえてリスクをとるべきだと。

[ロバート・クーパー]ええ、繰り返しになりますが、非常にはっきりしていることがあります。イノベーションを怠った企業、資金を活用しなかった企業、チャンスをつかまなかった企業は消えていきます。ビジネスの歴史は、つかむべきチャンスをつかみ損なった企業の話で満ちています。少し臆病だったとか、ビジョンを持ちチャンスをつかむ勇気を備えたリーダーがトップにいなかったとか、そんなことが理由かもしれません。法外なリスクでなければ管理する方法はあるのです。

 

行き詰まった新製品開発プロセスを解消する方法。次世代のステージゲート法(2:55~8:28)

ステージゲート法だけではありません。善かれと思って設計したプロセスが煩雑で、官僚主義的で、非常に骨の折れるものであるため、イノベーションを妨げてしまうということは実によく起こります。私は内部の人から、個人的に次のような話を聞かされることがあります。この会社では、時代遅れの硬直したプロセスのせいでイノベーションが妨げられていると。そういう人には私はこう返します。「それは情けないことではないですか。元々のモデルは、起業家やイノベーターが考案したものなのですから。つまり、あなた方の不手際で途中で何かが抜け落ちてしまったということなんですよ」

ですから、私たちは常にまず、基本に戻って考えることを勧めています。使っているモデルがステージゲート法の本来のコンセプトに本当に沿ったものであるかどうかを確認しましょう。これは書類作成の練習ではなく、プロジェクトをアイデア創出から市場投入まで進めていく起業家のためのガイドです。「さあ、皆さん。基本に立ち返りましょう」

企業はこれがうまくいくようにプロセスを進化させてきました。私はここで、3A(Adaptive、Agile、Acceleration)という3つのポイントに留意しています。

適応的(Adaptive)

第1の方法は、適応性を大幅に高めることです。たとえば、昔は一般的に、プロジェクトや製品を非常に早い段階で定義しました。製品の定義と一連の仕様を決めたら開発に直進し、製品開発とフィールドテストを行います。そして、顧客が望んでいたものとはかけ離れた、まったく異なるものを作ってしまい、すべてがうまくいかなくなるのです。

そこで今日は、極めて適応的なプロセスについてお話しします。非常に早い段階から何かを作る。つまり、開発が終わってからではなく開発前の段階から、バーチャルプロダクトやプロトセプト、大雑把なワーキングモデル、ダンボールの切り抜きなどを作り始めるのです・・・。ステークホルダーや経営陣、そして顧客にも明示できるものを作って、フィードバックを求めます。基本的にはこれに修正を加えていきます。

ですから、全体が一連のスパイラルあるいはループに基づいて進行します。構築、テスト、フィードバック、修正。そしてまた、構築、テスト、フィードバック、修正。このプロセス全体を通じて、誤った道に多額の資金をつぎ込む前に製品を見直し、早期に適切なところへ導くわけです。つまり、人間というものは実際に見てみないと自分が何を求めているのかが分からないため、何かを早期に、頻繁に、安く、迅速に顧客の目の前に届け、実際に見てもらおうという考え方です。

それが1つの方法です。最初に考えたことは通常間違っており、後になってからいろいろな問題に直面するため、製品を前もって定義するよりもむしろ進化させていこうという、非常に適応性の高いプロセスです。

アジャイル(Agile)

第2の方法は、私たちがたくさん目にするものです。以前よりもはるかにアジャイル方式が使われるようになっています。ソフトウェアライターたちが何十年も前に書いた、いわゆる「アジャイル宣言」は、私たちに多くのことを教えてくれました。ドキュメントではなく結果を重視すべきことや、プロセスを3、4、5、6週間のタイムボックスで一連のスプリント(スクラムチームが一定量の作業を完了させる際の、短く区切られた期間)に分割して、その最後に何かを生み出すべきことなどです。

ソフトウェアの開発というものは、食品や機械などの物理的製品の開発とは大きく異なります。そのため、物理的製品の開発における原則のすべてを持ち込むことはできませんが、中には持ち込めるものもあります。開発ステージを3週間や4週間の一連のスプリントに分割し、その最後にパワーポイントまでは使わなくても、何か簡潔な報告をしなければならないようにするのです。こうすると、マイルストーンから次のマイルストーンへとプロセスの全工程を非常に素早く進んでいくことができます。ドキュメントよりも結果に重きをおくことができます。これらは、私たちがアジャイル方式の専門家から学んだことの一部です。そして、それがステージゲート法のプロセスに組み込まれていると考えられます。

加速化(Acceleration)

最後に、第3のAである加速化(Acceleration)についてお話しします。プロジェクトではしばしば、ステージを重ね合わせるということが行われています。プロセスをもっと状況に応じたものにするということです。たとえば、小さなプロジェクトに大きなプロセスは使いません。大きなプロジェクトには大規模プロセスを、拡張や改良、修正には中規模プロセスを用います。また、2つのステージと2つのゲートからなる小規模で軽量なプロセス、「ステージゲートエクスプレス」と呼ばれる方法もあります。これらは営業チームのプロジェクトに使われ、非常に素早く進行します。ですから、小さなプロジェクトに大きなプロセスは使いません。とはいえ、プロセスを完全に回避するわけではありません。

また、プロセスを加速させるために他にもいくつかの方法が使用されています。リーン・アプローチやリーン・シックスシグマを活用することもあります。工場のオペレーションを改善するには素晴らしいメソッドです。製品開発の方法を改善する場合はどうでしょうか。イノベーションプロセスにバリューストリーム分析を適用すると、プロセスにおけるあらゆる種類の時間と無駄を一貫して省くことができました。価値を生まないものを排除するには、バリューストリーム分析が非常に有効です。そして、プロセスをよりリーンにしたり、コンテキストに沿うようにしたり、ステージや活動を重ね合わせたりすることで、プロセスを加速させようとしています。

また、皆さんの関心にお応えするために、もう1つ指摘させて頂きます。すなわち、自動化による加速です。ITによるステージゲートプロセスとポートフォリオマネジメントの支援は実際にプロセスを大幅に加速させており、このことは証明されています。

 

大胆なイノベーションを成功させるために、ポートフォリオマネジメントはどのような役割を果たすか(8:29~11:05)

どこに集中すべきか

ポートフォリオマネジメントは、大胆なイノベーションにとって非常に重要な構成要素です。特に戦略的ポートフォリオマネジメントは、実際に「どこに集中すべきか」という戦略とともに始まるため、重要と言えます。私は多くの企業にかかわっていますが、チャンスの乏しい分野や成長の原動力となるものが見当たらない領域に集中する企業があまりにも多く見られます。

ですから、最初の課題は「どこに集中するか」です。どのフィールドで勝負するか。不毛の砂漠ではなくオアシスを探すのです。

各領域にどれだけ投資すべきか

大変な作業ではありますが、それが決まれば、ポートフォリオ管理に取り掛かることができます。次の問いはこうです。「さて、2つの既存領域と2つの新しい領域に決めたが、それぞれにどれだけの資金を投入しようか。研究開発費の50%をこの2つの新領域に投入しようか、それとも10%にしておこうか」。これが戦略的バケットであり、ポートフォリオマネジメントの一部です。

そこで、経営陣がこの領域に集中しようと決めたら、次の課題は「どのリソースを投入するか、これらの新しい領域にどれだけのリソースを投入するか」ということです。

また、別の戦略的決定事項としては、プロジェクトの種類と組み合わせがあります。大胆なイノベーションにはリソースの何割を投入するか。通常の新製品開発には?拡張や変更プロジェクトには?非常に些細な変更にはどうか。均等に4分の1ずつがよいだろうか。あるいは大胆なイノベーションに2分の1を投じようか。こうしたこともポートフォリオマネジメントの一部です。

アイデアから市場投入までのプロセス

これらの決定は、企業がより大胆ななイノベーションに取り組む上で非常に重要なものです。そしてもちろん、プロセスそのもの、つまりイノベーションのプロセス、すでにお話ししたアイデアから市場投入までのプロセスも重要です。もしそれが機敏性や適応性等を備えていなければ、大胆なイノベーションを妨げ、だめにしてしまうことになりかねません。だからこそ、適切なプロセスを導入しましょう。

しかし、これらのピースがすべてうまく組み合わさるには、これに加えて、リーダーシップチームが醸成する適切な気風と文化が必要です。つまり、1つだけではなく、いくつものピースが組み合わさって初めて、勝利を勝ち取るチームが生まれるのです。

 

ステージゲート法はアジャイル方式にいかに対応するか(11:06~13:54)

ステージゲート法およびアジャイル方式は根本的なところで大変相性がよい

まず、ソフトウェア分野で使われているアジャイル製品開発があります。前にもお話ししたと思いますが、ソフトウェア分野でのアジャイル方式の原則は、すべてではありませんが、物理的製品開発の分野に適用できるものがあります。たとえば、タイムボックス化されたスプリントや、結果としての具体的な成果物という考え方、また、詳細な資料を作り込むよりも、人に見せてフィードバックを得ることができる具体的なものを作るという考え方などです。これは、先ほどお話ししたスパイラル開発や反復型開発に非常によく適合する、適応性のある側面です。

基本的に私たちがやっていることは、アジャイルの原則の一部を取り上げ、すでに成功しているステージゲート法のプロセスにそれらを組み込むということです。理にかなったことです。
典型的な5つのステージと5つのゲートを持つステージゲート法プロセスを使用している場合、これらの原則は開発フェーズ(ステージ3)とテストフェーズ(ステージ4)に適用できると多くの人が主張してきました。これより早いステージにこれらの原則を適用するのは、少し難しくなるかもしれません。

異なるシステムを統合

他にも、スウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソン社のように、両方の種類の開発業務を行っている企業でアジャイル方式が使用されています。エリクソン社は携帯通信機器用の電子システムを作っており、そのシステムのためのITも開発しています。したがってそこには、アジャイル方式を使っているIT部門のグループと、彼らなりのステージゲート法を使ってハードウェアを作っている物理的製品開発者のグループがいるわけです。しかも、2つのグループはお互い話をしません。互いに「自分たちのやり方でやる」と主張し、そこには多くの対立と齟齬があるのです。

最終的に、経営陣が彼らを集めて2つのグループを統合するように言いました。そして実際に、同社は統合を成功させることができました。2つのグループは対立するものではなく、非常にうまく適合しています。プロジェクトマネジメントの手法としてのアジャイル方式は、ステージゲート法のプロセスに非常によく適合するのです。

他のいくつかの企業でも同じようなことに遭遇しました。最初は対立があると思われていますが、決してそうではありません。よく考えてみれば分かるように、そんなことはないのです。これについて書いた論文もありますが、人々が対立を克服し、「なんだ、相性抜群じゃないか」と言っているのを見ると、私はうれしくなります。

[ミシェル・デュリファー]両者が組み合わさると、これらのようなプロジェクトに付加価値がもたらされますね。

[ロバート・クーパー]そのとおりです。

 

ステージゲート法の未来(13:54~最後)

リソースマネジメントの課題

企業は多くの問題に直面していますが、それは何年も前に直面したのと同じ問題と思われます。リソースマネジメントは大きな課題ですが、皆さんのようなソフトウェアのサプライヤーがリソースマネジメントの領域でソリューションを考案してくれていることをうれしく思います。私は長年にわたりいくつかの論文を書いてきました。その1つが 「製品開発におけるリソースの逼迫」, という論文で、私は分析の結果、製品開発における不具合や問題の多くは、プロジェクトを適切に遂行するための十分なリソースが割り当てられていないことに直接起因していることを明らかにしました。あまりにも多くのプロジェクトで、リソースが不足しているのです。

そこから始まり、あらゆることに影響が及んでいます。「単純に時間がないために、顧客の声の調査をしなかった」、「検証する時間がなかったので、たくさんの推測に基づいてビジネスケースを組み立てた」、「ただもう、負担が大きすぎて、あちこち手薄になっていた」といった具合です。

大変なプロジェクトに取り組むチームに十分なリソースがなかったり、チームメンバーが他のことに忙しすぎたりと、結局はリソースの問題に行き着きます。ですから、リソースマネジメントという領域は、将来的には重要な分野の1つになると思います。皆さんが非常に勤勉にそれに取り組んでいるのを見ると、うれしいですね。この問題を解決すれば、製品開発の悩ましい問題の半分は解決します。また、時間や加速化の問題も解決します。プロジェクトを早く完了させたければ、人員を増やせばよいのです。

私が見てきたことの1つは、こうです。新しいメソッドを開発している企業は、常に次のように強調しています。「専任のプロジェクトチーム体制を取っています。メンバーのフルタイムの仕事であり、他に5つのプロジェクトにアサインされているというようなことはありません」。プロジェクトを本当に加速させたいのであれば、当然そうでなければなりません。ですから、リソース管理が鍵を握ることになります。

大胆なイノベーションへの復帰

次にくるもうひとつの領域は、いっそう大胆ななイノベーションへの復帰です。この15年、世界の大企業の間では、設立当初の原動力となったイノベーションが失われてきています。これは悲しいことですね。企業は、オーナーや起業家、創業者が「あっ!」とひらめいたことを基盤に構築されていることが非常に多いものです。ヒューレット・パッカードのように。同社は最初に音声装置をテストするためのオーディオ発振器を世に出しましたが、現在の惨状はどうでしょうか。無数の企業が同じような道をたどっています。オーナーや創業者が壮大なアイデアをもって会社を設立し、やがて時間の経過とともにゆっくりと、しかし確実にその伝統が失われていくのです。

大手企業が成長の過程で真のイノベーションから遠ざかっているのは事実であり、これに関する確かな文献的証拠があります。真のイノベーションの比率は15年前あるいは20年前から次第に減少して、創業時よりは確実に少なくなっています。
だからこそ、私たちはもう一度原点に立ち返り、大胆なイノベーション、真のイノベーションを再発見しなければならないと思うのです。もしこれらの企業が草創期のような力強さ、パワー、繁栄を取り戻したいのであれば・・・。厳しい時代だからこそ、その厳しい時代に対応できる確実な方法があり、それがイノベーションです。イノベーションが十分に行われているとは思えません。できている企業もありますが、大半はそうではありません。

ですから、大胆なイノベーションが2つ目の大きな領域になるでしょう。リソースマネジメントと大胆なイノベーション、つまり、本当にゲームに勝っているときのやり方に立ち返ることです。私たちは将来この2つを目にすることになると期待しています。

プラニスウェアについて

プラニスウェアは全世界で25年以上の歴史を持ち、世界的な調査会社であるガートナーやフォレスター社で取り上げられる日本市場で唯一のプロジェクトポートフォリオ管理(PPM)ソリューションを有する企業です。

国内外の、自動車を含む製造業、消費財、ライフサイエンス、化学、ハイテク、その他の分野において、世界最大規模のR&Dプロジェクト100件のうち33%以上にプラニスウェアのソリューションが活用されています。プラニスウェアは、PPM分野のベストプラクティス手法のサポートに関して認証を受けており、製造業における代表的なガバナンス手法であるStage-Gate®Ready認定を取得した数少ないソフトウェアソリューション企業の1つでもあります。

 

stage_gate