ABB(ASEA Brown Boveri)は、電化、産業オートメーション、モーション、ロボティクス分野のグローバルリーダーであり、プロジェクトマネジメントにおいて「唯一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)」を確立するためにPlaniswareを導入しました。ABBは1988年、スウェーデンのASEAとスイスのBrown, Boveri & Cieの合併により誕生し、現在では100か国以上で事業を展開し、従業員数は10万人を超えています。
グローバル展開とイノベーション推進に伴う課題
ABBは、生産性とエネルギー効率を高めることを目的とした多様な製品とサービスのポートフォリオを管理していますが、特にさまざまな分野にまたがる大規模なエンジニアリングプロジェクトを管理する上で、多くの課題に直面しています。
「主な焦点はプロセスオートメーション事業にあります。この分野では125年以上の実績があり、それが私たちのデジタル化領域での強みの理由でもあります。最も低層のスマートデバイスから得られる情報を、次のレベルの制御システムで活用し、さらにその上位レベルではAIなどの解析ツールと組み合わせて活用できるのです。」ステファン・ペーパー氏(ABB ビジネスプロジェクトマネージャー)roject Manager at ABB
ABBの革新的な製品のひとつに、「AZIPOD(アジポッド)」電動推進システムがあります。このシステムは360度回転するプロペラを搭載しており、柔軟な船舶操舵を可能にし、自律的な港湾内の操船も実現できるポテンシャルを備えています。しかし、この製品に関連するプロジェクトの管理は困難を伴いました。特に課題となったのは、チームが地理的に分散していたこと、そして各拠点で異なるローカルプロセスが存在していたことでした。
「プロジェクトチームを同期させるのは大きな課題です。各チームが独自のプロセスやツールを使っており、それらが必ずしも相互に接続されているわけではありません。同じデータを何度も入力しなければならないこともあります。顧客向けの一貫したレポートや、経営層向けの統合レポートを作成するのにも、相当な労力がかかります。」
ISプロジェクトマネージャーのダニエル・ワイデマン氏は、さまざまな事業プロジェクトに応じてシステムやプロセスが最適化される「統合型プロジェクトマネジメント(IPM)」を支援できるシステムの必要性について語りました。
「情報を一度入力すれば、それをすべての関係者が共有・活用できるシステムが必要でした。チーム間の連携を実現するためには、IPM(統合型プロジェクトマネジメント)がすべての情報を1つのプラットフォーム上で提供できることが不可欠です。たとえばAzipodプロジェクトでは、異なる拠点からのリソースを細かく管理し、複雑な調達の納期をコントロールし、最終的には生産スロットの空き状況を突き合わせて確認する必要があります。IPMがあれば、正しい意思決定を行うためのすべてのデータが手元に揃うのです。」
Planiswareが2,500人のユーザーと50の事業ユニットを支援
PlaniswareのPPMソリューションは、ABBプロセスオートメーション事業(ABB PA)のプロジェクト管理における中核プラットフォームとして選定されました。これにより、データを一度入力すればグローバルで共有・活用できる体制が整いました。
導入が進むにつれて、Planiswareはリソース管理、複雑な調達スケジュールのコントロール、生産プロジェクトにおける生産スロットの調整などにおいて、重要な役割を果たすようになりました。
「ステファンが述べたような複雑さに対応するためには、統合型プロジェクトマネジメント(IPM)を支えるシステムが必要でした。2,500人以上のユーザー、50のローカルユニット、そして多様な事業プロジェクトに合わせて調整された複数のシステムやプロセスを扱う中で、Planiswareはその中核をなす主要なコンポーネントであり、メインプラットフォームとなっています。」ダニエル・ヴァイデマン(ABB・ISプロジェクトマネージャー)
加えて、ダニエル・ヴァイデマン氏は、Planiswareの導入によってプロジェクト実行に関わる多くのプロセスが自動化され、プロジェクトチームの時間を節約するだけでなく、より協働的な業務環境の促進にもつながっていると述べています。彼は、情報処理の改善が見られた主要な領域について次のように説明しています。
- 営業情報:プロジェクトの立ち上げと作成を迅速化し、同じデータの重複入力を回避
- リソースおよび人事情報:リソース管理の構造を整理し、リソースのキャパシティを把握
- エンジニアリング関連の文書情報:文書納品の最新状況を把握
- 財務情報:実工数や実コスト、発注済コスト(購買オーダー)、キャッシュフローや収益などのデータ。これらのデータに基づき、プロジェクト計画はすべてPlanisware上で行われています。
すべての情報が1つのプラットフォームに集約されることで、ABBは拡張されたレポート機能の恩恵を受けることができるようになりました。
変革マネジメントにおける「変化」への対応
一方で、新しいプロセスを人々に受け入れてもらうことは簡単ではありません。ABBの変革マネジメント戦略では、この移行を円滑に進めるためにさまざまな手法が用いられました。Danielは、特にADKARモデルの効果を強調しており、このモデルが新システムをABBのグローバル拠点に導入する際の成功要因の一つになったと述べています。
このフレームワークは、チームから個人レベルに至るまで、変革を実行するための明確なステップを提供します。通常、専任のチェンジマネージャーがこの取り組みを主導し、システムの受容度や定着度に関するフィードバックを積極的に収集し、それに基づいて必要な調整を行います。Danielは以下のようなガイドラインの一部を挙げています。
- ローカル・チャンピオン(現地責任者)はこのプロセスにおいて非常に重要な存在であり、グローバルのプログラムチームと各地域のオフィスをつなぐ重要な橋渡し役を担っています。彼らが提供するフィードバックは、全体戦略の形成に不可欠です。
- 複雑さを管理するために段階的な導入が戦略的に用いられました。導入は、まず「スケジューリング&リソース管理」から始まり、その後「コスト管理」、「レポーティング」へと展開されました。このアプローチは、4年をかけて50カ国以上にわたり実施され、現在も最終フェーズが進行中です。
- 専任のサポートチーム(3名のビジネス担当者で構成)が、各現地拠点のニーズに合わせたプロセスのカスタマイズを支援しています。
- Planiswareのコンサルタントとの継続的な協議を通じて、将来的なアップグレードに備えた柔軟性のあるシステム設計と、ユーザーフレンドリーなUIの実現が図られました。導入プロセス、操作性、将来の拡張性を誰にとっても分かりやすくシンプルにすることが重視されました。
「チェンジマネジメントは極めて重要です。組織全体を新しいテクノロジーと整合させる役割を果たします。」ダニエル・ワイデマン(ABB ISプロジェクトマネージャー)
教訓と今後の展望
Planisware Enterpriseの導入を通じて、ABBはプロジェクト実行において多くの重要な知見を得ました。中でも、プロセスの標準化、マネジメント層のコミットメント確保、開発および展開フェーズでのローカルキーユーザーの巻き込みが、成功に不可欠な戦略であることが明らかになりました。
ステファン氏は、Planisware Enterpriseの統合がABBの業務全体に与えた広範な影響についても述べており、このプログラムを「プロジェクト実行における大規模な品質向上プログラム」と表現しています。統合によって得られた成果は以下の通りです:
- 機能や地域をまたいだプロセスの標準化
- 複雑な業務に対応できるよう教育されたプロジェクトチーム
- 効率性と応答性を高める洗練されたツール群
- 利益率の低下抑制、受注件数の増加、実行期間の短縮といったビジネス上の大幅な改善
Planisware Enterpriseの展開が成功した今、ABBはプロジェクトマネジメントの進化を牽引し、業界の他企業にとっての模範となり続けています。