PMOとは何か:基本的な役割と責任
プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)とは、組織全体にわたるプロジェクトマネジメントの基準とベストプラクティスを定義し、維持し、遵守の徹底を促すことを目的とした部署です。 しかし、ここで明確にしておきたいのは、PMOの役割は、特定のプロジェクトを管理することではなく、プロジェクトのステークホルダー(経営陣、プロジェクトマネジャー、リソースマネジャーなど)がそのプロジェクトに期待される価値を実現できるように、基準やガイダンスを提供することとなります。
PMOの運営方法は組織ごとに異なりますが、通常は次のような共通の役割と責任を負います。
- アイデア創出から市場投入までのライフサイクルを監視するためのガバナンス手法の定義:ライフサイエンス業界には米国食品医薬品局(FDA)の定める手続き、製造業にはステージゲート法、IT業界には大規模アジャイルフレームワーク(Scaled Agile Framework:SAFe)などのフェーズゲートガバナンス
- プロジェクトの性質に応じたプロジェクトマネジメント手法の定義:最終製品が規定可能なプロジェクトにはウォーターフォール、ソフトウェアプロジェクトにはアジャイル手法など
- プロジェクトを管理・遂行するための、部門間におけるベストプラクティス、プロセス、ツールの標準化
- 組織におけるすべてのプロジェクトを中央管理し、効果的な意思決定を支援するための、データの適切性と正確性の確保
- 技法、方法論、ツール、システム、ベストプラクティスに関するコミュニケーションと研修の実施を通じた、組織共通のプロジェクト文化の確立
- よりよいプロジェクトマネジメントのための管理面における支援の提供と、テンプレート、ツール、ソフトウェアなどへの投資
ステージゲート法とは何か:各ゲートで判断すべきポイントとは
プロジェクトやポートフォリオレベルで適切な意思決定を支援するために、PMOが行うべき最も賢明な手段は、ステージゲート法の導入です。
ステージゲート法は確立された論理的なアプローチに基づいているため、比較的に短期間で抵抗を招くことなく導入することができます。
- ステージゲート法では、プロジェクトの取り組みを、経営陣の意思決定ゲート(gatekeeping)で区切られた明確なステージ(またはフェーズ)毎に分割
- クロスファンクショナルチームは、プロジェクトを次のステージに進める承認を経営陣から得るために、各ステージであらかじめ規定された一群の部門横断的活動を完了させ、規定の成果物を完成させなければならない
PMOは、プロセスおよび、各フェーズでどの標準的活動と成果物が必須または任意であるかを規定するのを支援します。
新製品開発の場合、最も一般的な分割は次のようになります。
各ゲートでは、プロセスを継続するかどうかの決定が行われます。
この決定は以下に基づいて行われます。
- 前のフェーズで要求された活動と成果物
- 継続への財務面でのビジネス・モチベーション
- プロジェクトを成功させるために何が必要かを示すアクションプラン
PMOの支援を受けたプロジェクトマネジャーが、レビュー委員会にデータを提供します。
各ゲートの終わりには、以下のいずれかの決定が下されます。
- 継続:「このプロジェクトは次のステージに進める価値がある」との判断による、追加予算の割り当ての決定
- 中止:「このプロジェクトは継続させる価値がない」との判断による、即座の中止の決定
- 保留:「このプロジェクトは現時点では継続させる価値がない」との判断による、後日再開する可能性を残した保留の決定
- 再生:「このプロジェクトは、次のステージに移る前にいくつかの変更を加えれば継続させる価値がある」との判断による、再生の決定
プロジェクトを中止する勇気:中止が望ましい場合や理由とは
プロジェクトの継続が最善ではない理由はたくさんあります。
- プロジェクトが創出するはずのものがもはや不要となり、経済的利益が得られなくなった場合(一般的に考えられるよりも高頻度で発生)
- この後投入しなければならない労力が計画よりもはるかに大きい場合
- あるステージで技術関連または知的財産関連の重大なリスクが生じ、その克服が困難であると思われる場合
- このプロジェクトを完遂するために必要なリソースを使って、より高い価値を創出できるプロジェクトが他にある場合
ステージの終わりにプロジェクトを中止する選択肢があることは、最初にプロジェクトを開始する際にも利点があります。最初は作業の一部分だけから始め、ステージの終わりで中止できるため、当初のコミットメントは非常に少なく済みます。これにより範囲はいっそう管理しやすく、おそらくは上層部からのゴーサインもより出やすくなるでしょう。
ステージゲートプロセスを組織全体に導入することで、PMOは次のことを達成します。
- プロジェクトマネジャーやチームに対して:各ステージでどのような活動を行いどのような成果を挙げなければならないかを詳細かつ体系的に定義することによる、各ゲートでの決定の支援
- 意思決定者に対して:すべてのプロジェクトが同じプロセスに従っていること、および、プロジェクトにおいて意思決定のための信頼性の高いデータが提供されることの保証
PMOのバリューの最大化:役割を戦略策定まで拡大するには
プロジェクトで最大の価値を創出する企業は、ポートフォリオマネジメントのプロセスとプラクティスを積極的に活用しています。それはどのようなものでしょうか。 簡単に述べると、プロジェクトマネジメントはプロジェクトを適切に遂行することであり、プロジェクトポートフォリオマネジメント(PPM)は適切なプロジェクトを遂行することです。 しかし、単に個々のプロジェクトを選択するだけではありません。PPMとは、1つまたは複数のプロジェクトのポートフォリオを一元管理することであり、特定の戦略目標を達成するためのプロジェクトの特定、優先順位付け、承認、管理、制御が含まれます。 PPMを成功させるには、次のような重要な問いに答えることが必要です。
- 適切な対象に投資しているか(戦略に沿っているか)
- ポートフォリオの価値を最大化しているか
- キャパシティを最適化しているか(利用可能なリソースで最大の価値を達成しているか)
- いかにうまく遂行しているか
- 期待された利益を実現しているか
したがって、PMOの役割は重要です。すべてのプロジェクトが同じステージゲートガバナンスの基準に従うようにすること。また、ポートフォリオマネジメントのレベルで一元管理し、統合された単一の正しい全体像を提供できるようにすること。これらを実現するためには、PMOの働きが欠かせません。
一方で、PMOが組織に与えるバリューはさらにあります。
ほとんどの組織は、プロジェクトポートフォリオマネジメントのプロセスにまだ精通していないことが多く、PMOがプロセスの運営を支援することで、ポートフォリオレビュー会議で下される決定の質を大幅に向上させることができます。
ここでもPMOは決定を下すために存在するのではなく、PPM委員会の意思決定を整理し、最適化するために存在します。これにはプロジェクトを一元管理し検証すること、適切なダッシュボードによるデータの提示、優先順位付けプロセスに関するガイダンスの提供、そして最後に、決定した内容の伝達が含まれます。
このプロセスは、プロジェクト管理からステージゲートガバナンスやポートフォリオマネジメントまで総合的に対応するソフトウェアによって大いに促進されることは明白です。
通常、PMOは小規模なチームですが、まずステージゲート法の組織全体への導入に集中的に取り組むことで、プロジェクト価値の向上に大きな違いを生み出すことができます。
次回のコンテンツでは、PMOを導入する適切なタイミングやその理由をご紹介いたします。
プラニスウェアについて
プラニスウェアは全世界で25年以上の歴史を持ち、世界的な調査会社であるガートナーやフォレスター社で取り上げられる日本市場で唯一のプロジェクトポートフォリオ管理(PPM)ソリューションを有する企業です。
国内外の、自動車を含む製造業、消費財、ライフサイエンス、化学、ハイテク、その他の分野において、世界最大規模のR&Dプロジェクト100件のうち33%以上にプラニスウェアのソリューションが活用されています。プラニスウェアは、PPM分野のベストプラクティス手法のサポートに関して認証を受けており、製造業における代表的なガバナンス手法であるStage-Gate®Ready認定を取得した数少ないソフトウェアソリューション企業の1つでもあります。