前回の記事からプロジェクトレベルへ移り、まずはステージ・ゲートプロセスの思想・原則、基本的な構造およびビジネス環境変化に適応する次世代のプロセスなどについて紹介をしました。本記事からプロジェクトマネジメントの詳細について記載をしていきます。
プロジェクトマネジメントの概要や各マネジメント領域の詳細は書籍やウェブサイト上で広く解説されています。従って、それらの解説は専門書などに譲り、本記事と次回の記事では統合PPMプラットフォームであるPlanisware Enterpriseが最も価値を発揮するプロジェクトマネジメントの方法論・領域に焦点を絞り、説明していきたいと思います。
本記事ではアーンド・バリュー・マネジメント(EVM)について記載します。専門的なプロジェクト管理を必要とする、特に航空宇宙や防衛、エンジニアリングや建設、あるいは大規模なデジタル化プロジェクトなど、「プロジェクトオーナーと請負業者」の関係が重視される業界・プロジェクトにおいて、EVMはベストプラクティスとして認識されており、弊社製品のPlanisware EnterpriseはEVMに関するソリューションを提供しております。
EVMの概要と便益
アーンド・バリュー・マネジメント(EVM)はプログラム・プロジェクトのマネジメント手法の一つです。EVMはプログラム・プロジェクトの発注者と請負業者間でコスト・スケジュール・品質面のパフォーマンスを客観的に測定・把握し、能動的な改善を促進します。より具体的には、プログラム・プロジェクトのスコープ、スケジュールおよび予算を統合したベースライン(Performance Measurement Baseline: PMB)に対して、パフォーマンス測定時までに作業を通じて獲得した価値を数値化した出来高(Earned Value: EV)と実績コスト(Actual Cost)を比較します。そしてプログラム・プロジェクト完了時のコストとスケジュールを予測すると同時に、計画との差分を生じさせている根本原因を特定・是正措置を検討・実行していきます。
EVMをプログラム・プロジェクトへ適用して計画策定とパフォーマンスマネジメントを最適化するためには、スコープ・スケジュール・コストを統合し、パフォーマンスを測定・評価・改善する方針・プロセス・ツールから成る仕組みが必要です。Earned Value Management System(EVMS)はEVMをシステマティックに実施するための枠組みで、現在ではANSI/EIA-748-Dとして規格化されており、請負業者のマネジメントシステムが満たすべき一連の要件を定義した32のガイドラインから構成されています。ANSI/EIA-748-Dでは以下のEVMSの原則を定めています(EIA748D: Earned Value Management Systems - SAE International):
- プログラム・プロジェクトの完了に至るまでの全てのスコープを定義する
- プログラム・プロジェクトのスコープを、スケジュール・予算・品質面の舵取りをする責任者または組織に割り当てられる粒度まで分解・詳細化する
- プログラム・プロジェクトのスコープ・スケジュール・予算をPMBとして統合し、当該ベースラインに対する達成度を測定する。また、PMBに対する変更を管理する
- 作業を実施する際に発生・記録された実際のコストを活用する
- 作業の達成度を客観的に評価する
- PMBからの重大な差異を分析・影響を予測して、実績費用と残作業に基づき完了時の見積もりを作成する
- 対象組織のマネジメントプロセスの中でEVMSに関する情報を活用する
EVMSが設計され、プログラム・プロジェクトに導入されると、請負業者と発注者の双方に大きなメリットをもたらします。以下はその一例です:
- 計画プロセスの改善
- スコープの明確な定義
- 作業に対する明確な責任の確立
- 品質、スケジュール、コストパフォーマンスの統合
- 潜在的な問題の早期警告
- 早急かつ能動的に注意を払うべき問題の特定
- 特定した問題がコストとスケジュールに与える影響を正確に報告
- 全てのマネジメント層に対する進捗状況の明確で客観性・一貫性のある報告
- プログラム・プロジェクト状況の可視性の向上、など
EVMの歴史
EVMの概念がプログラムマネジメントの基本的なアプローチとして市民権を得たのは、1966年に米国国防省(DoD)がプログラムの計画・管理要件にEVM(当時はCost/Schedule Planning Control Specification (C/SPCS)と命名)を義務付けたときです。
1960年代初頭、DoDの課題に冷戦の脅威への迅速な対応があり、DoDの請負業者が新しい技術を開発する必要がありました。 しかし、前例のない技術を迅速に開発する場合、プログラムは高い不確実性を含むこととなり、作業に対する妥当なコストを設定することが困難でした。ソビエト連邦に対する技術的優位性を維持するためにスピードを優先するには、DoDはプログラムに内在するコストリスクを受け入れなければなりませんでした。
また、DoDは政府機関、国民、議会、上院による継続的な監視の対象となっている公的機関です。各ステークホルダーからの圧力の結果、1960 年代の初期にDoDは当初使用していたコスト管理手法を、急速な技術開発に内在する不確実性の増加に対処するために改善する必要があると認識していました。
これを受け、DoDはPERT/Costを改良し、前述したC/SPCSを開発し、プログラムの計画・管理要件にそれを定めました。
その後、数十年に渡ってコンセプトと要件が改良され、名称も以下のように変更されてきました。
- Cost/Schedule Control System Criteria (C/SCSC)
- Earned Value Management Systems Criteria (EVMSC)
- Earned Value Management System (EVMS) (ANSI/EIA-748-D)
EVMはプログラム・プロジェクトをコストという一つの指標で評価する汎用的なマネジメント手法ですので、研究開発、建設、生産など、様々な種類のプログラム・プロジェクトであっても、全てのマネジメント層がコストおよびスケジュールのパフォーマンス・問題を早期に可視化・発見することが可能です。従って、EVMは国防総省(DoD)、航空宇宙局(NASA)、エネルギー省(DoE)、連邦航空局(FAA)、運輸省(DoT)など、多くの米国政府機関のマネジメント要件となっています。また、前述のような位置づけから民間セクターでもその適用が進んでおり、EVMは今ではプログラム・プロジェクトマネジメントのベストプラクティスとして広く受け入れられています。
日本でのEVMの適用は1980年代にエンジニアリング業界が海外でのプラント建設プロジェクトで発注者からEVMを通じた管理・報告が求められたことが始まりです。その後、IT業界においてシステム開発プロジェクトの失敗が相次いだことから、プロジェクトの進捗・管理を強化するためにEVMが活用されました。その他の業界においても行政がEVMをプロジェクトマネジメントの要求事項に含めたことから公的プロジェクトで活用されています。
昨今の国際情勢や様々な環境変化に対応するために防衛予算の拡大が予定されている日本において、今後、防衛産業で多くの新規プログラム・プロジェクトが立ち上がることを想像することは決して難しくなく、同時に今まで以上にEVMによるマネジメントの重要性が高まっていくことも容易に想像できます。
EVMの詳細
EVMSに関するANSI/EIA-748-D規格は32のガイドラインから構成されており、以下の5つのセクションに分かれています。
(※本記事の続きは、本ページより資料をダウンロード頂くとご覧頂けます)