投資対効果の最大化に向け、重要性を増すプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)。その勘所を、協和キリンとPlaniswareのキーパーソンに聞く。
高度なプロジェクト管理に挑戦する協和キリン
あなたの会社の研究開発プロジェクトの計画管理状況は可視化できているだろうか。環境の変化や、ある製品の開発状況の変化に応じて、ポートフォリオ全体で優先順位を検討し、限られた経営資源の配分・活用ができているだろうか。
協和キリンは、2030年に向けたビジョンの中に「日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして病気と向き合う人々に笑顔をもたらすLife-changingな価値の継続的な創出を目指す」を掲げ、高度な技術とユニークな視点で独自の研究を進め、高品質の製品を開発・提供している。
同社は、2019年に日本、北米、EMEA、アジア/オセアニアの4つの「地域(リージョン)」軸として、 開発、生産、薬事などの「機能(ファンクション)」軸を組み合わせたマトリックスマネジメント体制(One Kyowa Kirin体制)を構築した。そのような環境下で協和キリンでは、マトリックス体制下で発生する多種多様なデータをダイナミックに管理・分析し、より実効性の高い計画を策定・更新可能なプラットフォームを実現すべく、部門横断的なグローバルプロジェクトを立ち上げ、日々推進している。これが冒頭の問いに対し、「YES」と自信を持って答えるための協和キリンのアプローチだ。
挑戦をリードしているのが、同社 研究開発企画部(取材時) マネジャーの伊藤 智範氏である。伊藤氏と、プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)システムを提供しているPlaniswareの日本支社CEO パトリック・タニエ氏に話を聞いた。
1つのツールで現状把握やシミュレーションを迅速に行う
急速に変化する環境の中、グローバル化した複雑なマトリックス組織にて研究開発プロジェクトを計画・管理・分析し、適切・適時にリスクに対処、あるいは機会を捉えていくことの難易度は年々高まっている。信頼できるデータをグローバルで効率的に集計、可視化することは、ビジネス上の意思決定のために必須となっている。そのため、計画や実績データをクラウド上で一元管理することは、もはや当たり前といえる。
しかし、それだけでは不十分だと伊藤氏は指摘する。
「プロジェクトを一元管理するシステムは広く世の中に出回っていますが、データの一元管理のみでは不十分です。データを一元管理することを前提とした上で、さらに重要なのは、データ間の連動性です。研究開発プロジェクトには、非常に多くの部門や人が関わり、それぞれの活動が密接につながっています。つまり、それぞれの活動を表すデータも密接に、いつもつながり合っていないと意味が薄いのです」
同社は従来、各部門がMicrosoft Project、ExcelやPower Pointなど異なるツールを用いて、それぞれスケジュールを立て、タスクの計画管理を行っていた。それらを統合することで、1つの研究開発プロジェクトの全体計画を得ていたという。
「しかし、それはあくまで各部門の“ある一時点”の計画の切り貼りでしかありません。そのため、ある部門で活動計画が変化した場合、関連部門に計画の更新をお願いする必要がありました。そして、再度それらを収集、再統合することでようやく更新された全体計画が得られるのです」(伊藤氏)
一連の作業には多くの時間と工数がかかるため、経営層が手にする時にはタイムラグが発生し、最新とは言い難い状態になる可能性がある。「従って重要なのは、各部が各々の計画管理に同じツールを用い、データを関連付けて、1つが変化すると自動で関連するデータも変化する、連動性を確保しておくことなのです」と伊藤氏は言う。
ダイナミックに変化し続ける状況をいかに捉えるか
また、スケジュールだけが連携し合っていても完全ではなく、スケジュール情報の変化を人的リソース・コストの予測値にタイムリーに反映する必要がある。ところが、協和キリンでは従来、これらが独立して存在していた。それぞれを連携させることは容易ではないからだ。
例えばプロジェクトチームは、プロジェクトの遅延リスクを回避すべく、スケジュールの計画変更を行う。その際、将来的な人的リソース増加が想定されるにも関わらず、すぐに予測値を反映できず、人員計画に折り込めないという課題があったという。「その結果、実際にスケジュールが遅延してしまうか、乗り切るために現場の負担が想定以上に大きくなるという状況が発生していました」と伊藤氏は振り返る。
このように、現状の仕組みと独立したツールではダイナミックに変わり続けるプロジェクトの実態を捉えることが難しく、プロジェクト運営やポートフォリオ管理に限度があったという。
「この課題を解決すべく、当社では研究開発プロジェクトに関わる全部門のスケジュール・タスク・人的リソース・コストのデータ連携を行い、動的なプロジェクトの計画管理を1カ所で行う予定です。これを実現するため、数あるPPMシステムの中から、特にデータの連動性に強みを持つ『Planisware』を選択しました」と伊藤氏は述べる。
Planiswareには部署のスケジュールにひもづくようにコストの予測モデルが設定されている。これにより、スケジュールが変更された際にもPlaniswareが自動計算してくれるため、今までかかっていた多大な労力や時間を省き、タイムリーかつ簡便に最新のコスト予測値を入手することが可能になっている。人的リソース予測についても同様に、2024年にはモデルを実装するべく準備を進めているという。
「Planisware内のデータの連動性の効果で、計画変更が経営資源にどのように影響を与えるのかをタイムリーに把握できます。そして、データの連動性によって簡単にシミュレーションを行えるので、必要なときに適切な量の人的リソースを配分するなど、プロジェクトのリスクを回避することができます」と伊藤氏は説明する。
医薬品の研究開発のように不確実性が高いプロジェクトでは、リスクに対していかにプロアクティブに手を打つかが成功のカギになる。これは製薬業界に限らず、いずれの研究開発型企業においても重要な意味を成す。またシミュレーションでは、リスクだけでなく投資の余地なども可視化できる。これにより、さらなるイノベーション創出・加速化に繋げていくことが可能になるだろう。
「データの連動により、組織間の連動、ひいては人と人との連動、つまりコラボレーションが強化され、このVUCAの時代でも輝ける会社になると考えています」と伊藤氏は強調する。
システムを超えたフレームワーク・支援を提供
先の例のように、Planiswareの特徴であるスケジュール、人的リソース、コストなどのデータの連動性をビジネスに活用し、適切なデータでタイムリーに意思決定を行い、限られた経営資源の再配分・活用を行うことは理想的であり、多くの会社が実現したいと願っている。しかし一方で、協和キリンの取り組みはまだまだ珍しい例といえる。では、これらを実現するためのカギは何だろうか。それは、PPMのベストプラクティスを反映したシステム、およびシステム実装とチェンジマネジメントを包含したビジネス支援を積極的に活用することだ。
「先に紹介いただいたビジネスケースは、お客様が数あるPPMシステムの中からPlaniswareを選択される理由の代表例です」。そう話すのはPlaniswareのパトリック・タニエ氏だ。タニエ氏によれば、Planiswareを選ぶ顧客の多くは、次の2点を達成しようとしているという。
①プロジェクトレベル:依存関係を持たせたスケジュール、人的リソース、コスト、リスクなどを連携させて一元管理することで、実行状況と予測をタイムリーに可視化し、正しいデータに基づいた意思決定を実施
②ポートフォリオレベル:ポートフォリオの価値を最大化するために、戦略と整合させ、プロジェクト間の優先順位を付け、限られた経営資源を最適なプロジェクトへ適時に配分・活用
「このような要望は、ライフサイエンス、自動車、ハイテク、化学などの研究開発集約型産業や製造業のお客様から特に多くいただきます。一方、それらのお客様の多くは、Microsoft ProjectやExcelなどの汎用性の高いツールを使い、スケジュール、人的リソース、コスト、リスクなどを関連させてプロジェクト間の優先順位付けをしようとしています。それらのツールでもPPMをある程度実践することは可能ですが、各ツールの部分最適の組み合わせによる価値創出には限界があります。そのため、PPM専用のソフトウエアを駆使している組織に大きく水をあけられてしまうのです」(タニエ氏)。
その点Planiswareは、時々の顧客の声を反映し、進化を続けているPPM専用システムだ。これを利用することで、ベストプラクティスに基づいた最適なポートフォリオ管理、What-if分析、パラメトリック推定による自動見積、モンテカルロシミュレーション、ロードマップ策定、ステージゲート、ダイナミックプランニングを通じたアジャイルガバナンスなどを実践することが可能になる。
「また、私たちは単なるソフトウエア会社ではありません。PPMは真のマネジメント手法であるため、導入時にはビジネス面の改革も併せて必要となります。私たちが日本で会社を設立したとき、PPMが欧米と比較して認知・実践されていないことを十分に認識していました。そのため、ハイレベルな技術コンサルタントを採用するとともに、カスタマーサクセスマネジメント(CSM)のグループを設けました。本グループはビジネスの観点からもお客様を支援し、Planiswareの導入によりビジネス上の便益を享受していただけるよう尽力しています」とタニエ氏は話す。
このようにPlaniswareは、企業が戦略と実行の整合性を確保し、プロジェクトを通じた変革、アジリティの獲得、価値の創造・提供を実現するための規律であるPPMを実践するための最適なパートナーの1社となるだろう。「お客様がイノベーション・エクセレンスを達成するために、当社は良きパートナーとして共に歩んでいきたいと考えています」とタニエ氏は最後に語った。