前回の記事ではスケジュール・コスト・品質面のパフォーマンスを客観的に測定・把握するためのプログラム・プロジェクトマネジメント手法であるアーンド・バリュー・マネジメント(EVM)の概要について紹介しました。EVMは専門的なプロジェクト管理を必要とする、特に航空宇宙や防衛、エンジニアリングや建設、あるいは大規模なデジタル化プロジェクトなど、「プロジェクトオーナーと請負業者」の関係が重視される業界・プロジェクトにおいて、Eベストプラクティスとして認識されています。
本記事ではダイナミックプランニングについて記載します。ダイナミックプランニングではプロジェクト関係者が同じプラットフォームを活用し、プロジェクトデータを関連付けて一元管理することで、1つのデータの変更に対して関連データが自動で更新する連動性を確保します。これにより、計画変更に対してタイムリーにプロジェクトの現状が正しく反映されるため、プロジェクトマネジメントの複雑性を軽減するとともに、正しい現状理解に基づいた適切な意思決定を下すことが可能となります。ダイナミックプランニングは環境変化が大きく、複雑さが増す現代において、価値を創造・提供し続けるために必須のプロジェクトマネジメントアプローチです。
プロジェクトマネジメントにおいてダイナミックプランニングが必要とされる背景
日本企業の問題点の一つに前例踏襲主義による経路依存性(※)が度々取り上げられます。かつて日本企業は欧米企業を追い抜くことを目標にして彼らのやり方を模倣・改善することで、1980年代に一時的に世界を席巻しました。やるべきことが明確で、そこに至る道のりがシンプルで変化が小さい場合、過去のやり方を愚直に実行することは成功要因として機能する確率が高いと言えるでしょう。
(※)過去の経緯や歴史によって決められた仕組みや出来事にしばられる現象
しかしながら先行きが不透明で予測が困難なVUCA(※)の現代ではこの前提はもはや通用しません。進むべき方向性が不明確で、定めた目標への道のりも複雑で変化が大きい今日では、マネジメントは従業員を叱咤激励するだけでは不十分です。ゲームのルールが変わっているにも関わらず、それを認識・直視せず、前例や自身の成功体験をもとに企業活動をマネジメントすることで様々なひずみを生じさせ企業価値を毀損させます。例えば、求められる安全・品質基準や技術が困難になっているにも関わらず、過去と同様のスケジュール・納期での製品開発を現場へ期待・強いることで現場は品質や安全性を犠牲にして納期を優先せざるを得ないケースが挙げられます。この結果、市場投入後に安全面の問題が見つかり、生産・販売停止やリコールが発生するケースが度々取り沙汰されます。
(※)Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字から成る造語
初回の記事に記載をしましたが(プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の概要 第1回目:プロジェクトエコノミー時代における必須のマネジメント手法 | Planisware)、プロジェクトエコノミーの現代においてプロジェクトの重要性が増しており、日本企業は変化へ適応し、変革を起こす手段としてプロジェクトを次々と立ち上げています。既存事業・業務の改善を目的とした旧来のオペレーションとは異なり、プロジェクトは新事業立ち上げ、新製品・サービス開発、デジタルトランスフォーメーションなどの社内改革など、長期的な価値創出を牽引する活動です。従って、プロジェクトの成功は企業経営の成功に直結するといっても過言ではなく、変化や複雑性に対してプロジェクトを柔軟にマネジメントすることはこれからの時代において必須となります。
一方、VUCAの環境下では、プロジェクトの企画・計画時には想定外だった不確実性・リスクが出現する可能性が高まります。このような状況に適応しながらプロジェクトを実行・マネジメントするためには、次のプロセス・サイクルを円滑に遂行する必要があります。
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