企業が問題を避けることをやめ、問題を基盤にしていったらどうなるでしょうか。多くの組織にとって、「課題管理(イシュー・マネジメント)」は裏方の存在です。トラブル発生時のチェックリスト、あるいは、何かがうまくいかなかったことを婉曲的に表現するもの過ぎません。しかし、スイスに拠点を置くABBモーションのローカルビジネスラインである中電圧(MV)システムドライブでは、課題管理を事業運営の最前線かつ中心に据え、これがすべてを変えました。
カスタムエンジニアリング、厳しい納期、標準化されていない構成が求められる複雑な事業環境において、ABB社は、課題管理をプロセスではなく思想として格上げするという、あえて異例の選択をしました。そして、その取り組みは成果を上げました。問題を業務の中心に据えることで、プロジェクト納品における可視性、調整力、そして統制力を新たなレベルへと引き上げたのです。
では、どのようにそれを実現したのでしょうか?一夜にして変革を遂げるキャンペーンや、急進的な新手法によって達成したわけではありません。重複するツール、コミュニケーションギャップ、そして日常的に発生するプロジェクトの混乱。ABB社の継続的改善およびオペレーショナル・エクセレンス・マネージャーであるモニカ・ヴェニス氏は、Planiswareとの協業がどのように運用の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)向上に貢献したかを語ります。
カスタマープロジェクト、絶え間ないプレッシャー
同事業部は、極めて高いリスクを伴う環境で事業を展開しています。製造されるすべての中電圧ドライブが、顧客のニーズに合わせた仕様に沿って構成され、より広範なシステムに統合されます。そこに許されるエラーの許容範囲は極めて小さいのが特徴です。営業・設計から製造・試運転まで、スコープはライフサイクル全体に及びます。
高度なカスタマイズが前提である以上、想定外のことが発生することは避けられません。設計の最終段階での変更、部材調達の遅延、設計と製造との認識のずれなどが、納期、コスト、顧客満足度に直結します。
同社が目指したのは、こうした混乱を完全になくすことではありません。早期に捉え、迅速に共有し、協働して解決するための仕組みを整えることに注力しました。つまり、課題を情報とアクションに変えるシステムの構築でした。
エスカレーション文化の構築
この意識改革は一朝一夕で起きたものではありません。数年前、組織再編を機に、同社は納期に関する課題の対応方法を再評価しました。プロセス改善と並行して、リーン思想に基づく継続的改善フレームワークを導入。生産現場からエンジニアリングまで、あらゆるレベルの従業員が、目についた、気がついたことを記録することを奨励しました。
重大な問題に限定せず、同社はチームに対し、軽微なプロセスの逸脱であっても記録するよう奨励しました。どんな問題も小さすぎることはありません。毎週金曜日に部門横断のレビュー会議を開催し、日常業務で発生したすべての課題を確認。潜在的な原因を議論し、次のアクションを決定します。最初から掲げてきた目標は、問題に対して持続可能な解決策を見つけ、再発を防ぐこと。そして彼らは、この取り組みを10年近くにわたり欠かすことなく続けてきました。
「隠すものではなく見えるものとして課題を扱うことで、組織全体に本当の信頼が生まれます。そこからプロセスがスケールし始めるのです。」
- モニカ・ヴェニス氏
しかし、この優れた仕組みも、ツール面の制約が足かせとなっていました。製造部門は可視化ボードやスプレッドシートを使用し、プロジェクトマネージャーはSharePointでログを管理、エンジニアリング変更はSAPで追跡されていました。問題が発生すると、複数のシステムに重複入力が必要でした。情報は分散し、更新は一貫性に欠け、「唯一の正しい情報」を得ることができませんでした。
課題が解決された後も、振り返りの仕組みはほとんどありませんでした。傾向を分析したり、納期遅延を説明したり、将来の計画に活かしたりするための明確な記録がなかったのです。この断片化が制約要因となりました。同社には、プロセスを一つのプラットフォームに統合する方法が必要でした。
プロセスに適したプラットフォーム
ここでPlaniswareが果たした役割は、ABB社の業務を再定義することではなく、すでに機能している仕組みをスケールすることです。すでに成熟・定着しているプロセスを、その忠実性を損なわず、ユーザーに摩擦を生じさせない形でデジタル環境に移行することを支援しました。
Planiswareは、ABB社と連携して、画一的なソリューションを押し付けるのではなく、プロジェクト進捗を追跡するビジュアルボードなど、主要なワークフローを再現し、各チームの業務スタイルに合ったインターフェースを構築しました。これにより、製造現場での入力、エンジニアリングの変更、プロジェクトの課題が1つのシステムに集約され、二重入力やシステム上にないステップを排除できました。
重要なのは、この新しい仕組みによって、入力されたデータがその瞬間だけでなく、プロジェクト全体で活用できるようになったことです。課題はプロジェクトライフサイクル全体で追跡され、特定のフェーズ、マイルストーン、成果に紐づけられます。プロジェクト終了時には、チームで振り返りを行い、「何がうまくいかなかったのか?」「いつ発生したのか?」「どう対応したのか?」「次回はどう改善できるのか?」といった重要な問いに答えられるようになりました。
「私たちはプロセスを作り替えたのではありません。その価値を保ったまま、スケール可能な構造に転換したのです。」
- クリストフ・ボンドゥ(Planiswareシニアコンサルタント)
現在、同社のチームは、現場、エンジニアリング、その他の部門から課題が報告されるとすぐに確認できます。ステータス更新はリアルタイムで行われ、会議は問題の発見ではなく、解決に集中できるようになりました。
さらに、このシステムは課題の種類を区別する構造になっています。納期に影響する問題にはフラグが立てられ、優先度が付けられます。資材発注に影響するエンジニアリングの変更はチーム全体で可視化されます。全員が同じルールブックと同じ情報源を基に業務を進めます。
その結果、日々の連携だけでなく、計画精度も向上。過去プロジェクトの実データを基に、再発傾向の特定やデリバリープロセスの改善が可能になりました。
陰の立役者 – チェンジマネジメント
現在ではツールが裏側でスムーズに動作していますが、これは偶然の産物ではありません。
ABB社はプロジェクトの初期段階で、成功には技術的な設定と同じくらいチェンジマネジメントが重要であると判断し、そこに戦略的に投資しました。
部門横断でキーユーザーのネットワークを構築し、ニュースレターによる定期的なアップデート配信、チームごとに調整されたトレーニングセッション、そして本番稼働前には実際の業務プロセスを想定したエンドツーエンドの検証も実施しました。
稼働当日になって初めて説明するのではなく、ユーザーを早い段階から巻き込み、継続的に関与してもらったのです。
その努力は実を結びました。理解と信頼を得て、構築に関わってもらうことで、システムの定着を実現できたのです。
次のステージへ
ABB社は、今回の取り組みを将来への基盤と捉えています。
産業サプライヤーに求められる期待はますます高まっています。顧客は、より迅速な対応、より高い透明性、そしてより緊密な連携を求めています。取り組みは続きますが、その成果はすでに現れています。
「以前から仕組みは機能していましたが、スケールできませんでした。今では、成長しても統制を失わない可視性と構造が整っています。」
- モニカ・ヴェニス氏
本事例が示すのは、必ずしも最新ツールを急いで導入することが、卓越性の出発点ではないということです。課題を真剣に受け止めるというシンプルな決断と、それらを「シグナル」として扱うプロセスを気づくことから始めるのです。
正しいマインドセット、構造、ツールがそろえば、課題管理は競争優位性になり得ます。それこそが、複雑でリスクの高いプロジェクトを扱う組織において、最も賢明な出発点となるかもしれません。